― 「早さ」ではなく「深さ」を大切にする価値観 ―
インドネシア滞在も終盤、私は西ジャワ州の都市・バンドンへと移動した。
人口200万人を超えるこの都市は、街中を縫うようにミニバス(アンコタ)が走り、庶民の足となっている。
高原地帯には温泉地が点在し、人々は気負うことなく、日常の一部として湯に浸かっていた。
ここで感じたのは、「便利さ」よりも「豊かさ」を重んじる暮らしだった。
日本では時間や成果に追われ、常に最短ルートを求める。
一方でインドネシアの人々は、時間の流れを受け入れ、そのなかで関係を育み、自然の恵みに身を任せる。
この土地に根ざした価値観に触れたことで、私は日本の伝統織物である大島紬をどう未来につなぐべきか、深く考えるようになった。
それは単なる「商品開発」ではない。
文化と文化の接点を見つけ、物語として形にしていくこと。
そして、世界と繋がる新たな“布”の在り方を追求することだった。
インドネシアでの経験は、私の価値観を根底から変えた。
この地で得た学びと感動が、やがて「大島紬とジャワ更紗の融合」となって結実していく。
“伝統”とは守るものではなく、繋ぎ、進化させていくもの。
あの時バンドンで見た、無邪気に温泉を楽しむ人々の姿が、今も私の背中を押している。
そして現在、私たちはなお、新しい商品づくりに挑み続けている。
インドネシアから始まった伝統を守り進化させていく長い挑戦の旅は、まだ始まったばかりだ。

