― 理想と現実のはざまで ―
1カ月後、私は再びインドネシアに向かった。
スーツケースには、大島紬の生地20反、帯地20本。
すでに現地からは「製品が完成した」との連絡が届いていた。
経費を抑えるために5泊6日のツアーを申し込み、デンパサール経由でジャワ島のソロへ。
50歳を超えての新たな挑戦。期待と不安が入り混じる。
ソロの工房に到着すると、現地の社長が満面の笑みで出迎えてくれた。
「上手くいった」と自信に満ちた表情。
焦る気持ちを抑えながら、まずは日本からのお土産を手渡し、会話を交わす。
そして、運命の瞬間が訪れる。
広げられた製品を見て、私は言葉を失った…。
そこにあったのは、まるで“雑巾”のような染め上がり。
藍染めは深みがなく、大島紬本来の気品や艶が完全に損なわれていた。
「これが……大島紬か……?」
思わず、心の中でつぶやいた。
日本では着物の中でも最高級とされる大島紬。
それが、このような形で台無しにされてしまったことへの落胆は、計り知れない。
言葉も出ず、私は車に乗り込んだ。
次なる目的地ペカロンガンまでの5時間、通訳のスシーラにも何も言えなかった。
ただ静かに、自分自身と向き合っていた。
現地の宿に着いた私は、ひとり夕食の屋台で心を落ち着けようとした。
しかし、宗教上の理由から外ではアルコールも飲めない。
ようやく手に入れたビールを部屋で飲みながら、理想と現実のギャップを埋めるためにどうすべきか?考えている間にいつのまにか眠っていた。
この失敗は、のちの成功のための貴重な学びとなる。
しかし当時の私は、それを知る由もなかった――。

